家族を大切に思うほど、介護は苦しくなることがある

家で看てあげたい。
できるだけ住み慣れた家で過ごしてほしい。
寂しい思いをさせたくない。
最期までその人らしくいてほしい。

家族を大切に思うほど、介護は苦しくなることがある

大切な人だからこそ、そう願うのだと思います。
たくさんのご家族の訪問看護をさせていただいて感じてきたことです。

でも、その気持ちが強い人ほど、介護の中で苦しくなることがあります。

本当に私にできるだろうか。

夜中に何かあったらどうしよう。

痛みが強くなったら。
苦しそうにしていたら。

ちゃんと対応できるだろうか。

仕事はどうなる。
自分の生活はどうなる。

きょうだいや親戚にはどこまで頼っていいんだろう。

本人は本当は何を望んでいるんだろう。

そんな思いが次々に浮かんできます。

そして最後には、

「ちゃんと優しくしてあげられるだろうか」

そんな不安にたどり着くこともあります。

介護が始まると、家族はたくさんのものを抱えます。

けれど、その気持ちを誰かに話せる人は意外と多くありません。

本人が一番つらいのだから、私が頑張ればいい。

弱音を吐いてはいけない。

そうやって自分の気持ちを後回しにしてしまう。

でもわたしは、そこに介護の苦しさがあると思っています。

訪問看護を大切にしている理由のひとつに、祖母の在宅介護を見てきた経験があります。

母は祖母を本当に大切に思っていました。

家族だから頑張る。

家族だから無理をする。

家族だから、自分のことを後回しにする。

その姿を私は近くで見てきました。

大切に思う気持ちは、本当に尊いものです。
でも、大切に思うことと、自分を犠牲にし続けることは違います。

介護をしている人が、自分の人生を止めてしまう。

本音を飲み込み続けてしまう。

「私さえ我慢すればいい」と思い続けてしまう。

それは本当に、本人が望んでいることなのか?
わたしはずっと、その問いを抱えてきました。

訪問看護師になった今も、同じ場面にたくさん出会います。

家に帰りたい本人がいる。
帰してあげたい家族がいる。
でも不安が大きくて決められない。

旅行に行きたい本人がいる。
連れて行ってあげたい家族がいる。
でも何かあったらと思うと踏み出せない。

本当は話したいことがある。
聞いておきたいことがある。
それなのに、切り出せないまま時間だけが過ぎていく。

そんなご家族を何人も見てきました。

介護が始まると、まず方法を探します。

どんなサービスが使えるのか。

どの病院に相談すればいいのか。

介護保険はどう使うのか。

訪問看護は利用できるのか。

もちろん、それも大切です。

でもわたしは、その前に話してほしいことがあります。

あなたは何が不安ですか。

ご本人はどんな時間を過ごしたいですか。

どこまで家で過ごしたいですか。

何が起きたら助けを求めますか。

本当は何を我慢していますか。

本当はどうしたいですか。

こうした話は後回しにされがちです。

でも、本当は早いほうがいい。

介護は気合いだけでは続きません。

愛情だけでも続きません。

だからこそ、本音を話せる場所が必要です。

訪問看護というと、点滴や処置、薬の管理をする仕事だと思われることがあります。

もちろん、それも大切な役割です。

でもわたしたちが見ているのは病気だけではありません。

その方がどんな人生を歩いてきたのか。

何を大切にされてきたのか。

誰とどんな時間を過ごしたいのか。

何を諦めようとしているのか。

本当は何を望んでいるのか。

そこを一緒に見ていきたいと思っています。

「無理です」で終わらせたくない。

家に帰りたいなら、どうしたら帰れるだろう。

旅行に行きたいなら、どうしたら安心して行けるだろう。

本人も家族も納得できる形に近づくには何が必要だろう。

そんなことを考え続けるのが、わたしの訪問看護です。

介護をしていると、家族はどうしても自分たちで何とかしなければと思ってしまいます。

でも、誰かだけが全部背負わなくていい。

手を握ること。

名前を呼ぶこと。

昔話をすること。

一緒にごはんの匂いを感じること。

窓の外を眺めること。

その時間は、家族にしかつくれません。

だからこそ、医療や介護の不安は専門職に預けてください。

頑張りすぎなくていい。

自分の人生を止めなくていい。

あなたの気持ちまで置き去りにしなくていい。

病気や介護があると、どうしても失ったものに目が向きます。

できなくなったこと。

諦めなければいけないこと。

以前のようにはいかないこと。

でも、残っているものもあります。

伝えられる言葉があります。

一緒に過ごせる時間があります。

叶えられる願いがあります。

笑い合える瞬間があります。

わたしは、その人らしさは病気によって消えるものではないと思っています。

だからこそ、本人の想いも、家族の本音も置き去りにしたくない。

あなたがひとりで抱え込まなくていいように。

大切な人との時間を、大切な時間として過ごせるように。

病気や介護があっても、自分らしく生きる心地よさを思い出せる。

わたしたちは、そんな時間を一緒につくっていきたいと思っています。

訪問看護ステーションまりあ
佐藤絢美

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